
- 作者: 佐藤秀峰
- 発売日: 2013/02/28
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kindleで何気なく「ブラックジャックによろしく」を読んでいると印象深い言葉に出会った。
その台詞はこのような流れで飛び出した。
「この社会は障碍者にやさしいですか?」
「昔よりは良くなっていると思います」
「本当にそう思いますか?障碍者に対する差別的な言動をタブーにしただけで差別自体はなくなっていません。妻は息子がダウン症であると分かって泣きました。なぜならダウン症である息子とその親になるじぶんを"かわいそう"だと思ったからです。これも一種の差別ではありませんか?」
「それは責められませんよ。それが人間の感情ってもんです。そこに悪意はありません」
「そうです悪意はないのです。だから差別は無くしがたい」
差別とは我々の意識というよりは無意識の中にその本質がある。
人間の意識は、意識されない脳や身体の領域にその大半を制約されている。
生理学者、ブリューガーは断頭カエルの実験で、脳がなくてもカエルはこれまで経験したことのないまったく新しい体験に対応できることをつきとめた。すなわち人間も含め動物は「脊髄のみ」で「考える」ことができるのだ。
また脳科学者、ベンジャミン・リベットの自由意思についての有名な実験がある。
リベットはまず、運動を行おうと思ったときと、運動が始まるまでの時差を計測した。それによれば、意思から0.15秒後に運動は開始された。続いてリベットは、被験者の脳内の電位変化から、運動を制御する脳部位がいつ活性化されるかを計測した。その結果は、運動をあらかじめ予定していた場合は0.8~1秒前、運動を予定していない場合でも0.35秒前に脳内では準備が始まっていることがわかったという。
リベットの実験は、行動を意識する前に脳が活動を開始していることを証明した。すなわち人間は、脳や脊髄の無意識の反応を、それに応じて身体が活動をはじめてから、意識によって解釈しているすぎない。
例えばヤカンのお湯が沸騰すると、火を止めようとするだろう。
蒸気が吹き上がる音に気づいたら、慌てて椅子から立ち上がる。ところがリベットの実験では、ヤカンの沸騰に気づく0.35秒前に、脳は立ち上がる態勢に入っているのだ。
ヤカンが沸騰すると、知らないうちに立ち上がろうとする。立ち上がろうとした自分に気づいて、お湯が沸騰したから火を止めなくてはいけないと解釈する-----。
もし我々に予め差別感情があるとするならば意識する前にすでに無意識は差別してしまっているのだ。
人は様々な顔写真を提示されたとき、無意識のうちに自分と同じ人種を好ましく感じ、異なる人種に拒否反応を示す傾向にあることが社会心理学の実験でわかっている。人類の歴史の大半において、異なる集団を排除し、自分たちの集団を守ることが生前への必須条件だったことを考えれば、この無意識の人種差別感情は進化論的に最適化されている。
人種の違いに由来する無意味な紛争がなくならないのもそのためだ。
身体や容貌の欠損を見ると、人は無意識のうちに不快を感じ、遠ざけようとする。進化の過程において欠損は感染症や異常の兆候であり、正常な遺伝子を残すことが生存の条件だったのだから、この差別感情も強い合理性を有している。
もちろん今は、障害があっても生きていけるのだから、この差別意識のプログラムは無用の長物でしかない。
しかし人の意識は、猿人類や爬虫類、場合によっては原生生物から続く長い進化の歴史に強く拘束されている。こうした基本プログラムは急には変わらないから、人類社会の急激な変化についていくことができないのだ。
このように我々の無意識は進化の歴史を背景にしているため変えることは非常に困難だ。だからこそ、このような問題を意識の中に持ってくることが大切なのだろう。

- 作者: ベンジャミン・リベット,下條信輔
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